レッスルエンジェルスシリーズの妄想を放り投げるプログでした。今はゲーム話とTRPGがメイン?
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レッスルSS 日々是練習 ver1.02
レッスルのSSです。いつもどおりグダぐだで冗長です。麗子×麗華さまのお話の続きみたいな。前回はこちら。読むのがめんどくさい方は、麗華さまと麗子は公式で師弟関係ぽい、とだけ知っていていただければよいかと。それを利用した妄想です。

続きからより。この話は作成者の妄想で作られており、如何なる現実の団体及び現実的な根拠にも依拠していません。また、レッスルに関しても基本的に独自解釈であり、公式其の他とは著しい乖離があり、御不快に感じるかもしれません。さらに、キャラによっては不当に扱われているかもしれません。以上のことを、どうぞご容赦を。

話が強引だと、どうしても粗が大きすぎていきませんね。後、書かでものことを書きたくなるのも。まあ、何れの事も、いつもの事、そのほかいろいろいつもの事です。困ったものだw

ちょっと手直ししましたよ、と。見れば見るほど作りが荒いですね、これ。時間があったら、石垣から手直しをしましょう。
 練習前の準備は、大体にして若手の担当である。ジムのスタッフも居るのだが、道具に慣れておく、全てが修行であるという日本的な意味合いもあり、若手たちの仕事として続けられている。面倒くさいことでありそうだが、コーチや先輩という鬼のいぬ間ということで、普段は猫を被っている新人たちのキャピキャピとかわいらしい声が、こざっぱりした練習場を彩っている。
「それで、それでぇ、この香水、買ってもらったんだよ!」
 そんなおしゃべりの中、一際に高い声でお団子少女、金森麗子が10キロの鉄アレイを磨きながら口を動かしていた。フローリングの床にしゃがんだ彼女の周りには、普段の石けんの匂いと違う、すっと爽やかな香りが漂っている。彼女が先日、市ヶ谷の付き人を引き受けた時に、身だしなみを整えろという事でもらった、ゼロが二桁多い香水の匂いだ。
「いいなぁ、麗子さんは。でも、大丈夫なの? 市ヶ谷さんってアレでしょ。すごくワガママで、無茶なこというって……」
「昨日は、そんな事なかったけどな? 噂って無責任なものじゃない?」
 隣で25キロのゴム盤を磨いていた、カチューシャの後輩の一人から心配そうに尋ねられ、首を傾けて答えた。それを聞いたストレッチマットを運び出している小柄な先輩から、ちょっと苦笑いをされて、
「油断してると大変だよ。私もあの人に、何度苦労させられたことか」
「えへへ、大丈夫ですってば! そんな風に後ろ向きだと、また小ジワが増えますよ、先輩!」
「あんたね、ちょっとそこを動くな」
 先輩に睨まれ、きゃー♪ ごめんなさーい♪ と能天気な声を上げて、麗子が体をちょっと逸らし逃げるような動作をする。そんなキャイキャイと元気で邪気がない姿は、微笑ましいといべきか。
(……しかし、やはり容姿以外に、取り立てた所はなさそうね)
 秘書の井上霧子は、ジム設備の点検報告を流し聞きながら、麗子を眺めて頭の隅で考える。さっとデータを思い出してみても、身のこなしやスタミナこそ標準以上であるが、他は標準前後、体格の割には非力。コーチ、先輩の評では、それなりに練習は努力しているが、試合成績は平々凡々。真面目ではあるが、覇気が足らないといった所らしい。
(若手ならもっと将来性のある子もいるはずなのに、彼女を市ヶ谷さんの付き人にするなんて、社長の考えている事は分からないわ)
 付き人制は、教育のためのコーチや設備の掃除や整理、選手への雑用を行うマネージャーやセコンドといった、それぞれの専門の役割が分けられているこの団体では、例外を除いて行われていない。
 例外は、団体のトップエース達の付き人である。目的としては、エースたちのコーチングの予行練習やプロレスへの理解を高めさせる、教育の単純化防止等などだが、一番は彼女たちエースの名実共な後継者を作る、ということだ。話題を提供でき若手に箔を付けるにはもってこいの、便利な道具なのである。
「でも、麗子さんも市ヶ谷さんの後継者って事で、エースへの栄光のロードって奴ですかね? 羨ましいなぁ。みんなより一頭地、抜けた感じですよね?」
「まだまだ早いってば。別に付き人即後継者じゃないし、そういうのは結果が出てからでないとね。それに、麗子がヘボい試合をすると、市ヶ谷さんの名前も傷つくかもしれないんだから、しっかりやりなさいよ」
 先輩格の選手が言う通り、それを箔にするためには当然、結果を出さなければいけいない。だが、トップエースによる育成と言っても、彼女達もコーチ術に長けている分けではないので、付き人にするのは若手でも実力派なのが通例ではある。市ヶ谷の性格面を考慮して、その耐性を重視したのであろうか?
「後さ麗子、パワー型じゃないあんたが、市ヶ谷さんに何教えてもらうの? 今日の練習メニューは?」
「さぁ? 聞いてないですけど」
「うーんと、ほら、何か市ヶ谷さん的なすごいこと教えてくれるんですよ!」
「そういうのは事前に確認しておきなさいよ、何か必要になるかもしれないんだから。にしても、あんたと市ヶ谷さん、とことん方向性が違うのに、社長もどうして選んだんだか」
「うーん、その辺りは、私もわかんないですけど。あ、終わりましたから、今度は床、行きますね」
 そんなことをくっちゃべり、今度は床を走るように雑巾がけを始める。四つん這いになった麗子のお尻はぷりぷりしていて、幼いけどけど所々艶っぽいのが、彼女の人気の秘密の一つだろうか等と霧子は思う。そう言えば、芸能関係の予定も師弟という事で、あの市ヶ谷と相談する必要があるのも頭が痛い。そして、市ヶ谷の付き人潰しの実績、色々なかなか心臓に悪いことである。
(前途多難そうねぇ。ま、彼女達の事が私のお給料に関係するとは思えないから、今の所は、どうでもよいことだけれど)
 それよりも今日の朝食である。ダイエットを考えてあっさりいくか、自分へのご褒美でどかっとケーキでも食べるか、書類を適当にサインしながら、霧子は先程より真剣な表情で考え始めた。

 市ヶ谷の練習場は、彼女の実家である埼玉にあり、団体の練習場とは別の所に作られている。社長が認めた場合に限り、選手は独自の練習をすることはできるが、広さが足りないとか人が小蝿のようにいて邪魔だとか言う理由で、ドーム型の練習場を作ってしまうのは市ヶ谷しかいない。
「……」
「ふむ、ちゃんと準備を整えてあるようですわね、感心感心」
 そんな野球でもできそうな広々としたドームには、今は物々しいジャングルジムのような物体が占拠している。ダークスーツと傷だらけの顔にサングラスをかけた強面風の社長だが、黒光りしているそれには、ぼんやりとした間抜けな顔になってしまう。
「何なんだ、こりゃ」
「私がプロレスを始めた時に、使っていたものですわ。科学的な分析からプロレスで必要な鍛錬を全て揃えたトレーニングマシーン、市ヶ谷スポーツが開発した傑作の一つですわ」
「そ、そうか」
 鉄の城のように屹立するそれに、社長は色々とツッコミどころやら何やらがありすぎて、ただ1言しかだせない。市ヶ谷は得意げに胸を張って説明していたが、ふと、
「ところで、麗子さんはどこにいらっしゃるのですか? もう練習時間だというのまだ現れませんけど?」
「さてね、そういうとこ真面目なあいつが遅刻ってのも考え辛いし、間違って会社の方の練習場にいるんじゃないのか?」
「子供じゃないのですから間違えたなぞ、許されることではありませんわよ!」
 市ヶ谷からドーム天井を割らんばかりの一喝を受けた社長は、右耳だけ抑える真似をして迷惑そうに肩をすくめる。身に着けているのは普通の練習着にしか見えないが、彼女はマイクロ拡張マイクでも何個か仕込んでいるのではないかといつも思う。
「いちいち怒鳴るな。つーか市ヶ谷、ちゃんと麗子に場所を伝えたか?」
「……私から場所を伝えてはおりませんが」
「それじゃいないの仕方ないんじゃないか? お前がどこで練習してるかなんて、今までの接点もなかったんだから、分かるはずない」
「そんな雑用、あなたの役割でなくて?」
「おいおい、教えるのはお前なんだから、どこでやるか伝えるのはお前が決めるて伝える事だぞ? 俺はただ単に、会場の打ち合わせついでに来ただけだし、そんなこと知りようがない」
「私の意を汲んで、言われずとも行動するものです! まあ、あなた程度にそんな事を期待するだけ無駄だったでしょうか」
 多少、非があると思ったのか、市ヶ谷の声のトーンが落ちる。発電機なのか、黒い鉄の檻の脇に置かれた大人くらいの高さのエンジンを何でこんなものが付いているのかと眺めながら、社長も特に追求せず、
「ま、こっちも念のために確認しなかったのは悪かったが。とりあえず、会社の練習場だろうから、連絡して今から電車あたりで来てもらうか?」
「どのくらいかかりますか?」
「一時間くらいじゃねぇか?」
「そんなにかかるなんて! せっかく私が準備して差し上げたのに、練習時間が潰れてしまうではありませんか! ちょっと待ってなさい!」
 そう一声叫ぶと、市ヶ谷は懐から携帯を――意外な事に普通の、但し海外のだが、機種でヘンテコメカなどは付いておらず、柔らかい黒の一色だ――取り出してかけ始める。たかが迎えとはいえ、市ヶ谷がいきり立つとろくな事がないので、社長はちょっと慌てて、
「おいおい、何をするつもりだ」
「ヘリの手配をします」
「ヘリってお前……」
「私です! ヘリの手配をなさい! 場所は、団体の練習場です! そのようなことは聞いておりません! ただイエス、それ以外は無用! 返事は!? よろしい! では、任せますわよ!」
 市ヶ谷はそう言い捨てて電話を切る。ちょっとボタンを触ったようにしか見えなかったが、ぴきっ、という指で押したとは思えない、高い嫌な音が社長のところまで聞こえた。市ヶ谷のものが何でも特別聖なのは、理由のあることなのかもしれない。
「……あーと、あんまり無茶な言うなよ。いきなりヘリだなんて」
「臨機応変に対応できるよう、準備を整えておくのが当たり前なのです! それをあなたといい、運転手といい……」
「はいはい、お前さんみたいに完璧超人はじゃないんだから、程々に勘弁してくれよ」
「能天気な! そもそも、あなたが起こした問題でもあるのでしょう! 反省がたりませんわ!」
「~っ」
 満員御礼の興行ですら隅々まで声を響かせるその肺活量を、100%稼働させた怒鳴り声をまともに浴び、視界がフラッシュして白黒になり、思わず膝を折る。思わず耳を押さえたが、その反射的不可抗力的な動作をどう取ったのか、市ヶ谷がさらに目尻を釣り上げて、
「何とか言いなさい! いいでしょう、麗子が来るまでその辺り、みっちり説教をして差し上げます!」
「……はぁ。ま、まあ、お手柔らかに」
 社長はそう一言であきらめて、仕方がなさそうに肩をすくめ、市ヶ谷の猛烈な文句に耳を傾けだした。

「ごめんなさ~い、市ヶ谷さん、社長! 遅れちゃって!」
 その声に振り向くと、入り口のあたりで頭を下げる麗子のポツンとした姿が、社長の目に入ってきた。市ヶ谷も気づき、中央の黒鉄の城モドキを見上げて走ってくる麗子に向けて、
「遅いですわよ! もう二〇分も経っていますわ! ヘリを飛ばしたのですから5分で来なさい!」
「すませ~ん! 次は頑張ります!」
「別に頑張らんでも良いから、時間と場所の確認はしておけよ。ま、今回はうちらの方が悪かったが。何にせよ助かった」
 ドーム中央まで来て市ヶ谷に元気に一礼する麗子に、社長も声をかける。麗子が首を傾げ、
「助かったって何が?」
「市ヶ谷が今の今まで、ずっとうるさくてな」
「聞こえておりますわよ! そうやって、あなたに反省の色がないのが」
「さっさと練習始めっぞ。ストレッチはやってあるんだよな?」
「うん、大丈夫! ヘリの中でもやっておいたから! でも、ヘリって初めて乗ったけど、凄いよね! すごく高くて早いし、揺れもすごいし見た目もスレンダーでかっこいいし! アクロバット飛行とかできるのかな!?」
「さぁてね。とにかく、おしゃべりは終わりだ。市ヶ谷」
 そう社長に声をかけられ、不満げに社長を睨みつけていた市ヶ谷だが、ゴホンと咳を一つして調子を整えてから腕を組み、
「では、練習を始めます。初日から遅れなぞ出ては困りますので、バシバシ行きますわよ!」
「はぁい。それでぇ、何するんですか? このジャングルジムみたいの使うんですか?」
「なかなか察しがよろしいですわね。これは、私がまだ新人であった頃に使っていた練習器具ですわ。全てを乗り越えればプロレスに必要な全てを鍛えられる、という優れものです! あなたのような尻の青い輩にぴったりなので、わざわざ用意して差し上げたのです」
「? 私のお尻、別に青くないですよ?」
「物の例えですわ、それは。未熟者という意味です」
「へぇ。でもなんで、お尻が青いんですかね?」
「それは、えっと……」
「子供の蒙古斑からなんだが、とりあえず今はどうでも良いな」
 話が脱線し始めたので、社長がすぐ軌道修正を図る。麗子は別に頭は悪くないのだが、天然ではないにせよ、たまに変な所に行ってしまうのが欠点だ。
「そ、そうですわね。とにかく、先程、説明した通りですので、やってみなさい。内容はやりながら説明して差し上げます」
「は~い」
 市ヶ谷の言葉に無邪気に手を上げて答え、麗子はトットットと黒い鉄骨の中に入っていった。が、

「きゅ~う」
「情けない! 先ほどの返事はどうしたのですか!? ギブアップには早すぎますわよ!」
 仰向けなって変な声を上げている麗子を、いつ出したのか巨大なハリセンで苛立たしげに叩きながら、市ヶ谷が叱責する。社長が麗子に走り寄りながら、
「ギブアップというかノックアウトだな。おーい」
「どちらでも同じです! まだ一段階目なのですわよ!」
 一段回目の内容というのは単純で、鐘突き、振り子の要領で前から来る丸太状の棒を、受け止めながら進むというもの。中に砂が入っていて、ちょうど長めのサンドバックを横に倒した感じで、かなり重い。
「ほら、しっかりしろ。大丈夫か?」
「あ、あんま、りー」
 社長に声をかけられ、麗子が仰向けに回って、とぎれとぎれに答えた。最初の一撃目こそ耐えられたが、二撃三撃と前に進みながら続ける内に、腹に響いて思わず前かがみになった所へ、頭を撃ち抜かれたのである。
「いつまで休んでいるのです! まだ始まって10分も経っておりませんわよ!」
「ちょっと落ち着けって。ふらついているのにやらせたら危ないだろう?」
 麗子の上体に腕を回して助け起こしながら、社長は市ヶ谷を制する。重い砂袋に撃ち抜かれた麗子の頭は、外傷はないが中への衝撃はキツかったらしく、その体は力なくだらんとしている。
「立てるか?」
「うーん、右左に傾いて無理そう……」
「そうか。ちょっと持ち上げるからな。よっと」
 社長はお尻の辺りに腕を通して麗子を一息に持ち上げ、彼女の頭を肩の上に載せて赤ん坊を抱くような、自分へ被さる感じに抱きかかえる。
「へへぇん、お姫様抱っこだぁ」
「コアラみたいな感じで、お姫様抱っことは違うと思うがな。ここでしばらく寝てろ」
「はーい」
 麗子をまっさらに白いマットに置いて、一応、頭という事で市ヶ谷の黒子にドクターを呼んでもらう。それを前に腕を組んで睨んでいた市ヶ谷が、吐き捨ているように、
「まったく、私が新人時代軽くこなせた程度の事に歯が立たないとは…… 先が思いやれられますわ!」
「そう言うなって。運も悪かったし、新人っつてもお前、柔道王だったろ。普通の奴と比べるのは無理があるってば」
 肩を竦めて苦笑する社長に、市ヶ谷が不機嫌そうに後ろ髪をかき上げた。医務室の医者がカートですぐに来て、麗子と軽く何かを話した後、彼女の頭に氷嚢を載せている。
「ふん! なら、私についてこれる者を寄越しなさい! ちょっとの不運で倒れる無様な人間の子守なぞ、まったく御免であると申しませんでしたか?」
「今の新人で世界のエースであるお前にギリギリでもついてこれるのは、あの子くらいしかいないって。ただ、当たり前だが天才であるお前基準の練習をするには不足でね。もうちょっとお手柔らかにお願いするよ。お前だから任せるんだから」
「細かくおべんちゃらが出る口であること。太鼓持ちにでも転職したらどうかしら。では百歩譲って差し上げますから、あっさりノックダウンする輩のどこに、私についてこれる要素があるか、お答えくださる?」
 刺々しい市ヶ谷だが、口元と目の険が多少とれ始めている。麗子と話していた医者は、何かを紙に書いて黒子に渡し、既に医務室にカートに乗って帰っていく。それを眺めながら社長は言葉を続け、
「人には向き不向きがあるからな。あの子が体格なくて非力なのは、お前程の奴なら分かるだろう? そういう弱点がないっつっうのったら、お前が二つに分裂してくれるか、裕希子を弟子にでもしないとな。団体的にも話題が増えて大助りだが」
「戯れ言は結構。ま、あなたのわがままも一理ありますが。麗子! 話は終わったのでしょう! さっさと立ちなさい!」
「え~ もうちょっと休んでなさいってお医者さんが言ってましたよ?」
「医者というのは、どんな小さな傷でも最悪として対処するものです! 休む必要なぞございませんわ!」
「でもぉ」
 麗子は、いきなり無茶をやらされダメージを負ったからか、珍しくむくれた表情をする。彼女が何か言葉を続けようとする前に、先に社長から、
「よぉし、それなら俺が、休みながらも出来る秘伝を伝授してやろう!」
「何その秘伝って? 中二病っぽいよ。キショい」
「これは、俺が中国大陸を放浪していた時にってノリが悪いな」
「だって頭痛いし。もうちょっと気の利いた事言ってよ」
「怪我すると余裕がなくなってなぁ。ま、いいけどさ。とりあえず、立てるか?」
「それは大丈夫だけどさ。それで、何するの?」
 頬をぷうっと膨らませているが、素直に麗子は立ち上がって質問をする。社長は、ネクタイとスーツを脱いで脇に置き、Yシャツの上のボタンを外しながら、
「その前に、だ。自分に足りないことは何だと思う? 麗子」
「えーと、何って言われても。打たれ強さとか、力とか?」
「違う。そういう抽象的な事じゃあない」
「うんと、力比べになった時にあっさりつぶれちゃうとか、力配分を考えすぎだとか」
「違う。そういう細かい事じゃあない。もっと根本的な事だ」
 社長は、キザったらしく指先をチッチッチと振る。目の前の指先を小首を傾げて見つめながら麗子は、
「じゃ、何?」
「それは……………」
「それは?」
「…………………………………………………………………………………………中華だ!」
「はぁ?」
「お前には中華が足らない!」
「……もう帰るね、実家とかに」
「待て待て。こっちは、マジで言ってるんだから。ちょっとくらい聞いておけ、頼むから」
 冷たく背を向けた麗子の前に、社長は一瞬で回り込んで両肩を掴む。麗子はむうっと口をへの字にし、横腹へ両腕をくの字に立てて、
「いいけどさ。バカな内容だったら、ほんとに帰るよ?」
「それは大丈夫だ。約束しよう!」
「ふーん、嘘だったらパフェだからね」
「パフェでも何でも持ってけ」
 そう言うと、社長は付けていたサングラスを外す。虎も真っ青な強面だが、目だけはリスのように丸くて愛嬌がある。ゴツい体と傷がなければ美少年だったかもしれない。
「じゃ、伝授の前に質問だが、お前は中華な格好をしているな? 何でだ?」
「何でだって…… お団子だからそうしろって、安直な事言ったのは社長だよ?」
「そう、お団子だからって安直な理由だ。しかし、その安直も深めていけば、味が出る」
 かもしれない、という言葉を素面で飲み込んでおく。麗子は、訝しげな表情のまま、
「深めるのはいいけど、どうするの? 語尾にアルとかつける?」
「それは表面的過ぎて、深めているといえないな。ネタとしてはありだが。深めるって言うのは、内実を揃えるということだ。プロレスラー、挌闘家の内実って言うのは技の事。つまり、中国拳法を身につければいいのだ!」
「……えーと?」
「お待ちなさい! そのような強引な論法、そこの頭の悪い団子は騙せても、私は騙せませんわよ!」
「い、市ヶ谷!?」
 今まで機先を制せられ、タイミングが掴めず黙って睨んでいた市ヶ谷に、そういきなり大声で制せられ、存在を忘れていた社長はビクッと驚く。麗子の方は、無邪気な様子で首を傾け、
「あ、市ヶ谷さん、未だいたんですか?」
「当たり前でしょう! 曲がりなりにも私の下についた者が、変な邪道に惑わされてバカな事をやられては、私の沽券に関わります!」
「あー、うん、勝手にすまんな。お前さんの弟子なんだから、許可を取らんのは筋が通ってないな」
「勘違いなさらないで下さる!? あんな根性なしの団子を弟子に取ったつもりはありません!」
 社長は頭を掻いて手を合わせたのへ、市ヶ谷は不機嫌そうに鼻をならしてそう答える。それを聞いた麗子の方は、市ヶ谷の右腕を掴んで困ったように、
「え~ それはひどいですよ~ 弟子にしてくれるってちゃんといってたじゃないですか」
「いつどこで言いましたか! 私の用意した練習を少しもこなせない輩が私の弟子等とは100万年修行がたりませんわ!」
「うう、社長~」
「ま、市ヶ谷も自分の準備が無駄にされたんだから、そう言われても仕方ないな。それなりに気合入れて楽しみにしていたみたいだし」
「か、勝手なことおっしゃらないでくださる!? あんな準備なんぞ屁でもございませんし、別にこんな小娘どうなろうと知ったことではないのですから!」
「そう言うなら、そうでいいよ。だから、今は俺に任せておいてくれ。すぐ返すからさ」
「……ふん、勝手になさい!」
 一瞬つまったが、あっさりそう言い捨て市ヶ谷はプイと横を向いてしまう、麗子は小さな声を振るわせて、
「だ、大丈夫かな? すごく機嫌悪そうだけど」
「ま、未だ横にいてくれてるから、明日にでもなったら治ってるだろ。たんじゅ、腹の大きい奴だから。じゃ、話を続けるけど、どこまで話したかな?」
「うーんと、中国拳法が内実を深めるとかだったっけ?」
「そうだったか。で、中国拳法を学べば、お前の似非中華娘としてのスキルが上がるって訳だ。中華な格好しているなら、中華な技つかえた方がファンの期待にも答えられるだろう」
「まあ、そうかもしれないけどさ」
「それに、こういうものの方が、お前にも合ってると思うしな。ちょっと見ていろよ」
 そう言って、半身になって市ヶ谷の腹に右拳を当てる。
「いきなりなんですの! 人のお腹に」
「よっと」
「!?」
「へ?」
 社長は特に何か動いたように見えないのだが、あの市ヶ谷がお腹を押さえて膝をついてしまった。本当に何が起きたのか、見ていたはず麗子には分からず、ぽけっとした声しかでない。社長の方は淡々と、
「とまあ、中華を深めれば、腹が出かけた中年手前の男にも、こういうことが出来る訳だ。体格も大きくないお前にはピッタリだろ?」
「へぇ! すごいすごい! 私にも出きるのかな!?」
「出きるようになるから教えるのさ。少しやったくらいじゃ無理だけど。とりあえず、拳法型をちょっとやるから、この動きを真似してみな」
 そう言って、社長はゆるゆると動き始める。鋭くも早くもないが、澱みも固さもない動きで、1分も経たず終わってしまう。麗子は拍子抜けしたように、
「それだけ?」
「んな、一気にやっても覚えられんだろう。それに、別に拳法のこまかいとこまでマスターしたって、全部プロレスに応用効く訳じゃないんだから、これくらいでいいんだよ。ちょっとでもできれば、インタビューの余技としても充分だしな」
「そんなもんかな~ 市ヶ谷さんをあっさり倒した技とかすごいの教えてほしいんだけど」
「あれは枝葉で、重要って訳じゃない。型や技の中にあることを感じられるようになりな。そのための練習さ。そう言えば、市ヶ谷、いきなりだったが大丈夫」
「ええ、大丈夫ですわよ」
 膝をついたままだった市ヶ谷だが、にっこり笑いながら立ち上がる。その迫力に悪寒を感じながら、社長は固い笑みで一歩二歩と距離をとり、
「そ、そうか、良かったな。じゃ、これで! 麗子は2時間くらいそれやっとけ!」
 そう言い捨て後ろを向き走り出すが、単純な瞬発力で市ヶ谷にかなうはずもなく、タックルぎみに突っ込んできた市ヶ谷に襟首を捕まれる。彼女は極めていつもの口調で、
「ああ、もうちょっとお時間を下さいな。私のスパーリングの手伝いをしていただきたいので」
「そ、それなら、他の奴に頼んだらどうだ? こんな中年間際よりマシだろうから」
「中々おもしろいことをおっしゃりますわね? この私を、一撃で、膝をつかせた、男よりも、ふさわしい、方が、いらっしゃるなんて!!!!」
 そう大声があたりを揺らした瞬間、社長の耳元でびりっと言う嫌な音がなった。市ヶ谷が握力だけで、Yシャツの掴んだ部分に穴をあけたのである。その穴に指を通したまま。文字通り社長を引きずって、いつの間にか用意されているリングへと市ヶ谷は向かう。
「ま、待て待て待て待て! お前の相手なんかしたらぶっ壊れるわ! あれはお前が油断していたからであって!」
「油断であれなんであれ、中年太りの分際で私に膝をつかせたのは事実ですわ。ええ、私が、こんな中年太り如きに不覚を取るとは!」
 市ヶ谷は、勤めて平常な言い口をしようとしているが、所々で言葉が荒くなっている。社長の方はついに泣き声で、
「あ、謝るから、謝るから許して!」
「謝る必要なぞございません! ただ、私と、尋常に、死ぬまで、スパーをしていただければそれで結構! 往生際が悪いですわよ!」
「死ぬまでってお前! お、お助け~!」
 そんな二人がリングへと上がっていくのを、呆気に取られて眺めていた麗子は一言、
「二人共、仲良くっていいなぁ」
 羨ましげにつぶやいた後、軽く頭を振り、先ほど見た形を思い出しながら、見様見真似で体を動かし始めた。

「ひ、ひどい目にあった」
 社長が医務室で気づいた時には、既に夜も手前になっていた。起きたベットの枕元には、秘書の霧子から手紙が置いてあり、内容は今日の仕事は彼女が代理でこなせるものはこなしておいたこと、今回の不始末をスポンサーに報告されないためにも臨時給のお支払いをなさったほうがいい、というものだった。頑張って、すき焼きおごりで勘弁してもらおう。
「あら、ゆっくりでしたわね」
 医務室から出て外へ向かうと、入り口近くのカフェで足を組んでコーヒーを飲んでいる市ヶ谷がいた。微妙にキラキラと光るキツい赤のスーツに、黒いタイツをぴっちり纏んで足を組む姿は、市ヶ谷の肉感的で派手な容貌にいろんな意味でよく合っていて、思わず色んな意味で目をぎゅっと細めてしまう。
「スパーで素人相手にビューティーボムを五連発した、大人げない誰かさんのおかげさんでね。人を団扇か何かみたいに振り舞わしやがって。前、失礼な」
「どうぞ。しかし、その例えは団扇に失礼ですわね。団扇はいくら扇いでも、あんな醜い叫びをあげないのですから」
「はいはいっと。ところで、麗子はどうした?」
「今は、シャワー室ですわね。あなたが教えた下らない練習に熱中して、私を待たせるなんて無礼な小娘ですこと」 
 そう言って、コーヒーをグビッと飲み、顎に手を当てつまらなそうに窓の外を見る。社長も外を見てみるが、闇夜の街並みに明かりがポツリポツリとあるだけで、特に面白みがある訳ではない。
「本人が似非中華つながりで、興味を持ってくれたのはいいことさ。そうやって練習した方が、興味のないことをやらせるよりいいのは、紅茶にコーヒーを入れないくらいに当たり前だな」
「あら? 中国ではそういう飲み物もあるそうですわよ? 固定観念はいけませんね」
「はーん、世の中広いんだねぇ。なるほど、固定観念はいかんな。マムシ酒やゴキブリ酒があるくらいだから、不思議じゃないのかもしれん」
「……ゴキブリ酒はさすがに勘弁願いたいですわね」
「飲んでみると旨いかも知れんぞ? 別にゴキブリだって、茹でれば雑菌その他死滅すんだろうし」
「なら、買わせて来ますから、ぜひお試しになって感想をお聞かせ下さいな」
「御免被る。お、麗子!」
 奥から、クリーム色のフワフワした上着をまとって小走りにくる麗子に声をかける。麗子は練習の疲れも見えない、元気のいい笑顔で、
「あ、社長、大丈夫? 市ヶ谷さんも、お待たせしました」
「なんとかな」
「遅いですわよ」
「社長社長、ところでさ、社長に教えてもらったの、見てもらっていい? それなりに覚えたからさ!」
「その格好でか?」
 彼女の姿は別に運動しづらい服ではないのだが、下は膝上のミニスカートである。後は膝下までのハイソックスだけ、綺麗な足を惜しげなくさらしていて、こういうのは寒くないのだろうかと社長はいつも思う。
「別に、そんなに激しく動かないから見えないだろうし、見えたって構わないよ。単なる布だし」
「そう、恥じらいの言動されると、おじさん的には悲しいんだがな」
「そんな事どうでもいいから、とにかく見てよ」
 そう言って、彼女が気をつけのポーズを取って、ゆっくり動き出す。一目見ただけなはずだが、動きの形自体は、ちゃんと止まらずに出来ている。少なくとも、2時間以上は頑張って練習したのであろう。動き終わり最後に足を揃え礼をし、麗子は顔をパッと上げて、
「どう! なかなか上手でしょ!?」
「初めて一日、しかも一人でそこまで出きればたいしたものだ。なかなか出来ないぞ、そんなこと」
「ふふん! 頑張ったからね!」
「ま、型を型通りにやるだけだと、まだ意味はあんまりないんだが。型の中の事が出きるようにならないとな」
 素直に見事だと思っていたのであるが、彼女の得意げな姿に、ぽろりとそんな事をこぼしてしまい、麗子が不満げに口を尖らせる。
「それって、朝も言ってたけど、どういうこと? 正直、意味が分からないんだけど」
「あんまり言葉で説明しても、仕方ないんだが。そうだな、市ヶ谷が何で柔道で全日本で勝ったと思う?」
「何でって、やっぱり力がすごかったからじゃないの?」
「そうだな。普通ではありえないほどの怪力で、並み居る強豪を撃破していったんだ。じゃ、どうしてそんなに力が強かったんだ? 他の奴等も、それこそ一流の柔道技を持っていたし、筋力だって日本を代表する国技の連中だ、市ヶ谷にそう劣っていた訳じゃあないのに」
「うーんと、よく分からないけど、それが型を型通りとか何とかって言うのと、何が関係あるの?」
「市ヶ谷の柔道時代のライバルたちも、柔道の技を型通りに綺麗にできて、且つ実践出来たはずだ。もしかしたら市ヶ谷以上にな。でも、勝てなかったって事の理由さ」
「え、えーと……」
「迂遠な物言いですわね。もっとすっぱりおっしゃったらどうです? 出し惜しみするような、価値のあることではないでしょう? 大体、今日の練習で身につけられることではありませんわよ」
 市ヶ谷が、湯気でも出しそうな感じで頭を抱えている麗子をばかばかしそうに見つめながら、ため息をつく。社長は苦笑いして、
「そんなつもりはないんだが。大体、言って理解できることじゃあないしな。言葉で伝えられるのは、そういうものがあるって事くらいだ。体感でもさせられればいいんだが」
「ふむ、体感ですか。なるほど、いい事を思いつきましたわ。麗子!」
「は、はい!」
 いきなり大声をかけられ、麗子は直立不動で返事をする。市ヶ谷は、持っていたコーヒーカップを軽くチンっと皿に置き、嬉しげに微笑んで、
「そこの無能が、もったいぶっていることを、私が明日からの練習で身につけさせて差し上げましょう」
「ええ! 本当ですか!」
「ええ、私、嘘は申しませんの。ついでに、あなたの似非中華な部分をもっとはっきり生かせるようにもして差し上げます」
「おいおい。んな安請け合いして、何やるんだよ」
 社長の訝しげな顔へ、市ヶ谷は優雅に笑い返しながら、
「それは当日のお楽しみですわ。何、あなたよりよっぽどマシな事を教えて差し上げます」
「それなら構わんのだが…… まあ、いい任せた」
 こういう自信満々の時に、彼女に何か言っても無駄で、悪くすると怒り出してしまう。また説教やスパーは嫌だし、別に取って食いはしないだろう、と多少不安に思いつつも言葉を飲み込んでおく。市ヶ谷は、社長がそんな風に気を揉んでいる事なぞ露程気にせず、軽く胸を張って高らかに、
「任されました! さて、迎えの車も着たようですし、準備もありますので、今日は帰ると致しましょう。おーほほほほほほ!」

「なんじゃこりゃ?」
 目の前にあるのは中華街である。それが例えば、横浜だとかにあるのなら、社長もそんな疑問を呟かなかったであろうが、ここは市ヶ谷のドーム練習場である。昨日の鉄のジャングルジムはなくなり、今、社長の目の前には、派手な看板を掲げ、果物が木の箱に並べられ焼いた豚や鳥が吊るされた、中華風の屋台、市場が立ち並んでいる。
 その回りで、作業着を着た人たちが、大型の業務用ビデオにコードを繋げたり、マイクの位置を調整したり、脇に組まれた鉄骨の矢倉の上で照明の向きをいじったりしている。中華風の格好をした人たちも居て、映画やテレビなどで見たことのある人間そっくりの人もいる。その中から、
「あ、社長。おはよう! 見て見てすごいでしょ!」
 麗子が、興奮した様子で手を振って声をかけてきた。彼女は黄色、というか黄金色に輝くの派手なチャイナドレスを纏っていて、深いスリットからスラリとした足が見えている。
「私、カンフー映画のヒロインやるんだって! この服も市ヶ谷さんが特別に用意してくれたの! 今、俳優の本村さんに会ってサインもらったんだよ!」
「まくし立てないで、落ち着いて話してくれ。何言ってるか分からん。映画のヒロインって何だよ?」
「市ヶ谷さんが言ってたの! 今冬やる『列守流自衛流洲』に、私をヒロインで出すんだって! それで今日、撮影するの!」
「あーと、その映画ってあれか? 売れっ子の日本女優の酒何とかとアメリカのアカデミー取ったけど無名な監督が組んでやるとか言うはちゃめっちゃカンフーの? 確か、CMで売り込みまくってたけど、目玉の二人が警察沙汰でおじゃんになりそうなんじゃなかったっけ?」
「説明台詞ありがとう! この服はヒロインの服で、本物の金使って光らせているんだって!」
「そうかよ。しかし、何でお前がヒロインになって、今日ここで撮影なんだ?」
「そんな一度に聞かれても分からないよぉ。私もヒロインやれって言われただけだし」
「……とりあえず、市ヶ谷だな、市ヶ谷を探さねぇと話にならん」
 麗子では話にならぬと、重いため息と共につぶやく社長に後ろから、
「あら、いらしたのですか。暇な方ですわね。私の名前を呼んでいたようですが、何かご用ですか」
「市ヶ谷か!? 一体、何なんだこれは!?」
 振り返った社長が見た市ヶ谷の格好は、丸帽子に薄い茶色のサングラス、青いウィンドブレーカーとカーキ色の長ズボンで、右手には何故かメガホンを持って肩をぽんぽんっと叩いている。
「今日の練習ですわ。そんな当然の事をお聞きなさらないでくださる?」
「どの辺りが当然なんだよ!? これが練習!? 一体何なのか説明してくれ!」
「まったく、凡俗は理解力が足らないから困りますわね…… もう時間ですから、後で説明致しますわ」
 大声で迫る社長へ、邪魔くさそうにしっしと手を振り、市ヶ谷はメガホンを構えいつの間にか用意された床机に座って足を組む。社長は、とにかく様子を見るしかないかと仕方無しに黙り込み、麗子はハーイと手を挙げて、
「でも市ヶ谷さん。私、台本もらってないんですけど、どうするんですか?」
「先ほど、カンフーアクションの講師の方に動きのレクチャーを受けましたね!?」
「受けましたけどぉ、それが何か?」
「台本はありませんので、その教えを生かして、アクションを行いなさい! スタート!」
 その言葉と共に、人の背の倍くらいある長い木の棒を持った3人の、ボロボロのカンフー風の服を扮した男達が麗子の前を取り囲む。
「え、え、え!? きゃ!」
 まごつく麗子の目の前に立った男の一人が、その棒を彼女の頭めがけて袈裟斬りにふり下ろす。麗子は突然の事だったが、体を倒して横転して何とか避けた。スカート?が大きくズレ、白い太股が地面に投げ出される。
「な、何!? 何なの!? これ!?」
「とにかくそいつらを倒しなさい! ちんたらやっていると制限時間が来ますよ!」
「せ、制限時間って、きゃあ!」
 ますます混乱した麗子だが、お構いなしに突っ込んでくる男の一人の、まっすぐ構えた棒の先端に、オープンガードのような体勢で思わず出した足が当たる。棒は撓んでパーンと中から折れ、それで男達が一瞬ひるんだ隙に、勢いよく立ち上がった麗子が、
「え、えーと! てい! てい!」
 一息に飛び込みながら、右足を振り上げてすぐに引き、その戻す反動を利用しつつ逆足を跳ばして振り抜く二段蹴りを放つ。棒を折られた男は、不意をつかれた形になり、右足へは何とか腕を入れたが押し込まれ、しかし左足は直に受ける羽目になり、仰向けに中を浮いて倒れる。
「いい動きですわよ!」
「え、そうですか! えへへっきゃ!」
 市ヶ谷の賞賛に、思わず振り返ってしまった麗子に向けて、残りの男の一人が棒を振るって彼女の胴を打ち据える。見た目は木の棒だが、材質は別なのか、麗子は驚いただけで特にダメージはなさそうだが、
「え、あ、え!? ふわ! うにゃ!?」
 ふらついた所をさらに足を払われ、地面に横倒しになってしまう。そこを逃さず別の男により、麗子は喉元を棒の横で斜めに押さえつけられてしまう。それを見た市ヶ谷はすぐに立ち上がり、
「カット! 本番中によそ見をするとは何事ですか! それに倒れるにせよ、もっと工夫しなさい! もう一回行きますわよ!」
「ちょっと待てちょっと待て! 一体何なんだ一体! 説明してくれるんじゃなかったのか!?」 
 メガホンを構えて注意を行う市ヶ谷の耳元に、社長が大声で問い質す。麗子の方も、立ち上がりながら不安げに、
「あの、えっと、出きれば私にもお願いします。映画の撮影じゃないんですか?」
「いちいち面倒くさいですが、替えの棒の用意のため多少時間が開くようなので、その間に説明いたしますわ! これは撮影でもあり、練習でもあります!」
「なんだそりゃ。いきなり撮影という時点でアレなんだが、何の練習なんだよ」
 訝しげな顔をする社長の耳に、市ヶ谷は嫌な笑みを浮かべてメガホンを当て、
「それは、あなたが昨日おっしゃっていた事を麗子に身につけさせる練習です!」
「っだぁ! 耳がぁ! 耳がぁ!」
「それってアレですか? 技とは別のなんたらかんたらとか言う?」
 耳を押さえて転げまわる社長の代わりに、麗子が質問する。悶える社長を、横目で満足げに見詰めながら市ヶ谷は、
「そうです! 今、無様に悶絶している輩のやり方では、教えようとしたことを身につけるには、迂遠すぎます! 的外れといってもいい。もっと早く身につけるには、実践しつつ体感するのが一番! 昨日と先ほどの講師の教えで種は蒔かれました! 次に、本格的な体感をしていただこうと、今回、このカンフー映画を買い取ったのです! 映画の演技を通じて、中国拳法の奥を文字通り体で覚えなさい!」
「お、おい、買い取ったって…… その練習のためだけに映画を買ったのか? 確かに体感と実践が大事なんだけど……」
「その通り! ちょうど安かったですし、中華な動きの一流どころに触れる簡単なチャンス、逃がすには惜しいですわ!」
「学ばせるのはいいんだが、それはそれで無駄が大きすぎるグホ!?」
 市ヶ谷は、何か言っていた社長をアリのように踏みつけ黙らせる。麗子の方は、感極まったように頬を赤くして、
「わぁ! 私のためにありがとうございます! さすが市ヶ谷さん、すごいです!」
「ふふん、ま、不肖とはいえ弟子のためです! たいした事ではありませんわ! 私を満足させられれば、こんなケチの付いたものでなく、違う立派な映画のヒロインも探してきて差し上げますから、頑張って下さいな! さて、あちらの用意も出来た様ですし、始めますわよ!」
「はーい!」
 市ヶ谷の言葉に、麗子は生き生きと目を輝かして答える。先程と同じように棒を持った3人の男が取り囲むが、麗子の構えはやる気が出たからか、前と違い精気に満ちてなかなかの迫力である。そしていざ、殺陣が始まらんとした時、市ヶ谷が突如思い出したように、
「ああ、そうそう! 基本的にあなたがヒロインですが、無様な動きが続けば降格致しますから! 役どころは、悪の組織に捕まって弄ばれ、助けようとしたヒロインも間に合わずに死んでしまう役です!」
「ええ! ちょっちょっとそれって何ですか!? そういう役はまだちょっと自信ないというか嫌ですよ!? アイタッ!」
「無様な姿を全国区で晒したくなければ、しっかり練習なさい! 何、この会社のスタントマンは一流で手加減無用とは申し上げてありますが、上手くやれば大丈夫ですわよ、上手くやれれば! おーっほほほほほほほほ!」
「そ、そんなぁ! ひゃあ! 良く見るとこの人たち目が血走ってるぅー!? わぁん! ちょっと待ってよー!」
 市ヶ谷のメガホンを通した笑い声と麗子の悲鳴が、ドーム全体に響いていくのであった。

続く?
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