レッスルエンジェルスシリーズの妄想を放り投げるプログでした。今はゲーム話とTRPGがメイン?
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レッスルSS 黄色い雛は空を見つめ ver1.1
久しぶりにSSでも。あんまりちゃんと見なおしてないので、いろいろと駄目でしょうが。金森ファンの癖に、金森分が不足しているということで、金森話。内容は、よくあるお悩みものです。内容は、時間はかかりましたよ~ なんてw

キャスト 金森麗子、社長、ビューティー市ヶ谷

概要 金森は今日の試合で……

続きからより。左のような能力値ですので、皆様方のイメージや公式設定と多々異なることがあります。読まれる方はご注意&ご容赦ください。またキャラによっては不当な扱いもしているかと思います。こちらもお許しください。プロレス素人につき色々おかしいかと思いますがこの辺りもご寛容の程を。

最初期に書いたのと似通ってますが、まあ続きますのでご寛容くださいませませ。

すぐ手直しして、ver1.1になりました。
相手が踏み込んできた瞬間、それはこの技の絶好のタイミングである。自分もほぼ同時に斜めに踏み込む、横に並ぶつもりで一気に近づくのがコツ。そうすればあと一歩で相手の後ろにたどり着ける位置、文字通り延髄を切ることができる位置だ。真後ろからに近い一撃は視界には入らないし、自分の体は相手の視界の中点から外れているので動きを読むことも不可、必中必殺の一撃と自信を持っていた。そのはずなのに……
アナウンサー『金森麗子、延髄切、市ヶ谷! 軽くかがんで避けました! これは読まれたかぁ!』
何が起きたかを理解する時間が、間延びしたように長く金森は感じた。
金森「そんな……」
認めたくない。自分の自信を、絶対に当たると思った一撃を、こうも簡単にかわされるなんて。技に失敗し倒れ込んだまま、呆然と自分を見上げる金森に、市ヶ谷は薄い笑いを浮かべながら、
市ヶ谷「良い表情ですわよ。無様に怯えて、ホントかわいらしい」
金森「や、やだ……」
ゆっくり近づいてくる、逃げないと、逃げないと。でも、体はどう動いていいか分からなくて、立ち上がることもできないまま這うように離れようとして、
市ヶ谷「ふふふふ、捕まえましたよ」
金森「はな、放して……」
足を振り上げれば、腰をひねって転がれば、でも動かない。体にはちゃんとつながっているのに、全てが全て、綿か何かになったように反応してくれない。
市ヶ谷「そんなにかわいらしく怖がられると、ふふ、食べちゃいたくなりますわ」
金森「ひ……」
市ヶ谷「ふふふふ、かわいい悲鳴を聞かせてくださいませ。そぉら!」
体を支えていた地面が突如なくなる。ぶぅんと風を切る感触を体で感じて、ふわりと一瞬の浮遊感。視界には観客席が目に入って、そして、それから、さっき以上の激しさで風を裂いていく感触を、腕が根元から振り回すした時のようにびゅっと伸びていくのを感じて……
アナウンサー『ビューティーボォム! 倒れた金森を強引にぶっこ抜いて叩きつけたァ! さぁ、カウン、おっと市ヶ谷、抑え込まずに離れました。これは……? 金森麗子、ぴくりとも動きません! これはまさか! レフリーが確認に入ました! ……失神! 金森麗子、失神しております! 市ヶ谷のKO勝ちだぁ!』

目に入ったのは白い光に、金森は眩しくて思わず目を細める。
金森「ん…」
呻いて右に首を回す。白い壁である。右にグリーンといった感じで回っている。ぼんやりしばらくそれを感じたあと、左に首を回す、カーテンがある。カーテンもまたグリーンと右に回転して傾いて行く。頭の中から、しくしくと痛みを感じる。
市ヶ谷「それで、麗子さんは大丈夫なのでしょうね?」
社長「医者には軽く確認してもらったが、一応問題はないそうだ。でも、検査はしないと駄目だってさ」
誰かの話し声が聞こえる。知り合いの声、怒鳴るような大声、それくらいしか金森には分からなかったが、とりあえず起きようとする。しかし、芯が腐ったようで体は上手く動いてくれず、もぞもぞとするだけで、挙句にどさっとベットから落ちる。
金森「あいたたた……」
市ヶ谷「大丈夫ですか! 麗子さん!」
落ちた衝撃で、金森の頭を包んでいた靄がすこし取れた。血相を変えてカーテンを開けてきた、無駄にきらきら輝く白い女性用スーツの人は市ヶ谷麗華、自分の団体の社長兼トップエース、常に自信たっぷりな人でこんな風に慌てているのは珍しいと金森は思う。
金森「ど、どうも~」
社長「よう、目が覚めたか!」
黒いフニャフニャのスーツにネクタイに短髪の痩せぎすな顔、社長だ。手に黄色いスポーツバックを下げている。正確には社長代理らしいが、昔の団体では社長だったので、みんな社長と呼ぶ。やや痩せこけた感じに似合わない、張りがある大音声が特徴で、今はきーんと頭に響く。見上げていると、やっぱり二人もグリーンと右回転、見ていて気持ち悪い。
市ヶ谷「それで! 大丈夫なのでしょうね! 麗子さん!」
金森「な、何がです?」
何故か気負いこんでいる市ヶ谷にズイっと迫られて、金森は体をちょっとひいてしまう。
市ヶ谷「気持ち悪いとかそういうのがないかと言っているのです!」
金森「えっと、えっと」
頭の芯のグリっグリっと痛み、頭が上手く動かない。何があったんだっけ?
市ヶ谷「何かあるのですか!」
金森「そ、その……」
市ヶ谷「はっきりなさい!」
社長「おいおい、落ち着け市ヶ谷。そんなにせかしたら、金森も混乱するだろう」
社長が落ち着いた笑みで止めに入ってくれるが、デフォルトで部屋に反響するくらいの大きさの声が頭に響いてきて、金森は思わず頭をおさえてします。
社長「それで、どんな感じだ? 体の調子は。頭はキてるみたいだが」
金森「……ん」
金森は口の端に指先を当てて目だけ上を向かせる。頭、首、肩、腕、手、背、腰、足、足首…… 順番に意識して確認してみる。
金森「頭がジンジンするだけ、かな? あと、えっと、視界が右に回っていくというか」
市ヶ谷「まぁ! 早く医者を!」
社長「それはいいが、もうちょい待て。他には?」
だんだん金森も、今どうなっているのかを分かり始める。まず、自分は試合をしていたはずである、それで……
金森「ない、と思うけど…… 試合、どうなったの?」
市ヶ谷「そ、それは……」
口ごもる市ヶ谷を尻目に、社長は何でもないような軽い調子で、
社長「ああ、お前は市ヶ谷と試合中、頭をやられてKO負け。今いるのは医務室だ」
市ヶ谷「あなた! そんな軽々しく」
社長「隠したって分かるんだから、躊躇しても仕方ないだろ。そんな変に構えるなんてらしくないぞ」
金森「KO負け……」
ふっと、胸からお腹の下にかけて、底のない冷たさが沸いてくる。会心の一撃をあっさりかわされたあの時の感触。
社長「ああ、ビューティーボムでな。もろ頭がポーンといって失神したんだ」
市ヶ谷「そ、そういう事です! まったく、受け身もとらないとは、私の引き立て役とはいえ何をやっているのですか!」
金森「……」
市ヶ谷「麗子さん?」
金森(最近、全然駄目だな、私)
遠い目して、ここ最近の醜態を金森は思い出す。負けがこんでいる。それくらいならまだ良いであろうが、自分の試合内容自体が最悪。戸惑いが出てしまい滑らか動けず、簡単な動作でも失敗してしまう。焦って無駄な力が入ってしまい、威力もでずスピードもなくであっさり受けられる。そして動揺している所を突かれ、相手の技を受け流しきれず簡単に大ダメージを受けてすぐ動けなくなって終了。そんな試合ばかりである。
「………!」
最近の対戦相手が、市ヶ谷や南といった上位選手に変わってきて、これまでみたいに楽に戦えないのが一因だろうが、それにしたって圧倒されすぎで無様としか言いようがない。
金森(社長も市ヶ谷さんも私を認めてくれて、上の人と戦わせてくれているって言うのに、全然こたえられてない)
対等に戦えるとは思っていないし、やられ役も別段構わないが、それでも自分らしさを示して一矢報いるくらいは出来ないと駄目だというのに。
「……ん!」
今日に至っては、必殺技を外されただけで動揺して委縮してしまい、挙句には受け身も取れずに失神である。未熟すぎで、穴があったら入りたい。
「……さん!!」
アイドルは卒業した、いつまでも若手でもない、それなのに自分は……
市ヶ谷「麗子さん! 聞いているのですか!」
金森「は、はい!」
ボーとして市ヶ谷を無視する形になってしまったらしい事に金森は気付き、血の気が引いてくる。市ヶ谷さん相手に何をやってる!
金森「あ、う、そ、その…」
まず謝るべきなのに、喉が詰まってしまったようで言葉にならない。そんな風に慌てる金森へ市ヶ谷は、苛立たしげに舌打ちし吐き捨てるように、
市ヶ谷「私、あなたのことを少しばかりは認めておりましたのに、基本の基の字もまともにできないとはどういうことなのですか! しかも、私のことを無視! 考えられない程の愚かしい方ですわね!」
金森「その、ご、ごめんなさい…… 迷惑かけて……」
市ヶ谷の怒りはもっともで、申し訳なさやら恥ずかしさやら情けなさやらで金森の声はかすれ、しょぼくれた感じになってしまう。そんな声を聞き、市ヶ谷はやや焦ったような早口になり、
市ヶ谷「と、とにかく今から病院に参りますから! 着替えて支度をしなさい! 早く!」
金森「は、はい……」
どうも心配をさせてしまっているらしい。試合もまともにできず、受け身をしないという失態で迷惑しかかけていない自分、もうどうしようもないくらいの駄目さ加減だと金森は恥じ入る。
社長「んじゃ、俺が連れていくから駐車場まで来てくれ。一人で大丈夫か?」
金森「う、うん! 大丈夫!」
無理に腹から声を出し、なるべく元気よく聞こえるようにする。暗くなって肩を落としていては、また余計な心配を背負わせてしまう。
市ヶ谷「私も……」
何か言おうとした市ヶ谷を遮るようにドアが開く。白髪の老人で黒の燕尾服、市ヶ谷の執事兼秘書である。
執事「お嬢様、営業部の方よりお話が……」
市ヶ谷「後にしろと言っておきなさい。私は……」
社長「待て待て。俺がちゃんと送っておくから市ヶ谷、仕事を優先してくれ。責任者が全員いなくなるわけにもいかないし」
市ヶ谷「しかし!」
興奮しているのか市ヶ谷が怒鳴り声をあげ、金森は首をすくめる。雷鳴みたいな迫力で、虎すら竦ませそうである。そんな声も、社長は特に気にした様子もなく、
社長「金森にちょっとやりすぎて申し訳ないのも分かるが、そう焦ったりするなよ」
社長のその言葉は市ヶ谷の顔をばっと真っ赤にし、
市ヶ谷「申し訳ないなどと思っておりません! ただ、引き立て役が怪我でもしたら心ぱ、ええい! どうでもよろしい!」
社長「そうかい? まぁ、結果出たらすぐ連絡するから安心してくれ」
市ヶ谷は少しの間、社長を険しい目で睨んでいたが、ふっと息を抜き、
市ヶ谷「分かりましたわ。お任せいたします。ちゃんと連絡するのですよ?」
社長「分かってるよ」
市ヶ谷「よろしい。では、爺! 行きますわよ!」
そう言って、乱暴にドアを開けて出て行ってしまう。執事は金森たちに一礼、市ヶ谷の後を追いドアを静かに閉めて出ていく。社長はその様子を微笑んで見つめ、
社長「じゃ、俺も行くから、これ着替えな。一人で大丈夫か?」
振りかえって持っていたスポーツバックを差し出してくる。黄色いポリエステルの袋型、金森のモノである。金森はちょっと考えるように上を向き、
金森「無理って言ったら手伝ってくれる?」
社長「他の奴を呼んできてやるよ」
金森「……社長に、手伝ってもらいたいの」
そうゆっくりと、でもはっきりと言い切り、上目使いでみつめる金森。それを見た社長は、キョトンとしたがすぐ軽く笑って、
社長「ま、からかう余裕があるなら大丈夫だな。でも、無理するなよ」
そう言って軽く頭を小突く。金森はぷぅっと頬を膨らませて、
金森「む~ もうちょっと慌ててくれてもよいのに」
社長「唐突すぎるんだよ」
金森「ちぇ」
社長「ま、ともかく早く準備してくれよ。俺は駐車場で待ってるから」
そう言って社長はドアに向かおうとするが、軽い抵抗を感じて振り向く。下を向いた金森が袖を軽くつかんでいる。
社長「ん、どうした?」
金森「……」
金森は黙ったまま答えない。社長はちょっと困ったような調子で、
社長「何かあるのか? 気持ち悪いとか痛みが一気に増したとか」
そうじゃない、けど金森にも明確な理由はわからない。ただ、社長が去ろうとした時、胸にくすぶる冷たさがぎゅっと一瞬冷気を増し、それに反射的に反応してしまったのだ。唯一、金森が分かることは、引き留めるべきではなかったということ。だって、
金森「……私、私ね。どうしてこんなのなのかな」
震える声はくぐもっていて、
社長「こんなのっていうのは?」
金森「負けちゃったじゃん。いいとこなしで」
自分の顔は見えないけど、
社長「あ~と」
金森「最近、こんなのばっかり」
上を向く訳にはいかないのだから。
金森「や、やっぱ、り、駄、駄目、なの、かな、私」
目のあたりが熱く濡れている感じがする。それはどうしたって止められない、少なくとも金森自身では。
社長「ほりゃ」
金森「うぐ」
いきなり金森の口が塞がれ、目を何かが覆う。がさがさした感触で気持ち良くはない。でも、じわじわと温もりが伝わってくる。
金森「あ、う、社長?」
抱きしめられている事を意識で理解するのに、金森は数秒かかった。
社長「まあ、泣くなって言ってもしょうがないしな、うん」
そう言った後は、さて、どうしたもんかと社長は悩む。う~む、シミュレート(妄想)上ならいくらでも言葉は出るのだが。
金森「……」
金森は社長の胸に手をおいて、顔を軽く引き離す。金森の体は冷たく、抱きしめられて驚いたのか強張ってしまっている。ちょっと考えなしだったかなと社長は思う。しばらく、沈黙が続いたが、
金森「しゃちょう、わ、わたし、どう…… どう、なの、かな?」
金森はそんな質問をしてきた。涙声は変わらず、やや躊躇いがちに。
社長「どうってのは?」
金森「……わ、わたし、むいてない、の、グスっ、か、かな、ズゥッ、れすらー」
社長「あ~と、今日の件を気にしてるのか? 失神なんて、たまにあるんだからそう思いつめ」
金森「ちがう!」
鼻の詰まった声で、いきなり鋭く叫ばれ、社長はやや耳がつーんとする。
金森「いつもそうなの! グスッ。今日だけじゃなくて、最近いつも!」
社長「それは、そろそろ大丈夫かなと思って試合を上位と組ませて」
金森「知ってる! そんなの!」
社長「っ!」
ドンっと胸に頭突きをされ、ちょっと息が詰まる。う~む、平気そうな顔をしていたが、思いつめてたんだな、と社長はぼんやり思う。性格が良い分、間違えると貯め込んでしまうのかもしれない。他の事なら、ちゃんとガス抜きができているのだが、
社長(レスラーとして、となると色々と、か。自分が、かわいいだけと思われるのを結構、気にしてるからな)
ミスコンで優勝できるほど、容姿可憐で愛らしい。それだけで、十分人気が出てしまう。だが、だから、容姿に覆い隠されて、プロレスラーとしての自分の価値が上手く掴めない。かわいさ以外に何か残っているのか、不安になってしまう。
金森「我慢して、グスっ、頑張って、ヒゥ、越えなきゃいけないのは、分かってる! けど、ぜ、全然、歯が立たなくて! 試合にもなってなくて!」
社長「仮にもトップクラスなんだから、初めはそんなも」
金森「そんなのウソ!」
金森の言葉は、すでに金切り声に近い。胸にあてた手は固く服を掴み、ギュッと体重をかけられているので、社長は首がかなり辛かったりする。
金森「私だけだよ! あんなかっこわるいの! 他の人が、南さんとか市ヶ谷さんとかがあんな恥ずかしい姿さらしたりしない!」
社長「いや、市ヶ谷はあれがるだろう。ほら、新人のころにアメリカのチャンピオンに」
金森「そんなの知らない! 関係ない!」
大声で喚き散らして、まるで駄々っ子だなと金森は頭の隅で思う。こんな風に癇癪を起したところで、社長を困らすだけだというのは分かっている。でも、溢れでたらもう、止まれないのだ。
金森「私は、やっぱり、ぐす、やっぱり向いてなかったんだ! かわいいだけで、グスっ、レスラー何かやらない方が良かったんだ!」
社長「いやいや、そんなことはないぞ! お前はよくやってる!」
金森「ウソ! ウソウソウソ! 社長だって私がかわいいってだけでスカウトしたんでしょ! それだけを期待してるんでしょ!  そんな白々しいウソつかないでよ!」
金森のそんな悲鳴みたいな叫びに、社長はハァ、と溜息をついて肩をがっくり落とす。
社長「………あのなぁ金森」
金森「何よ! 下らない慰めなんていらないんだから!」
そう叫んだ瞬間、ドンっと金森の両肩に重い衝撃が走った。
金森「っ!」
社長「おい、金森、顔をあげろ」
先ほどの、慰めるような優しげな調子とは違い、低く低く響くような声で社長がそう言ってきた。両肩には衝撃の名残のしびれた感じと、暖かい感触、社長の手。先ほどの衝撃は、肩に向かって社長が思いっきり腕を振り下ろしたかららしい。
金森「や、やだ……」
社長「駄目だ。サッサと顔をあげて俺の目を見ろ」
社長の先ほどとは違う威圧感に毒気を抜かれ、怯えるように金森は要請を拒むが、社長は許してはくれない。甘えが過ぎて、完全に怒らしてしまったのだろうか。両肩に乗せられた社長の手はきつく握り締められ、金森の心を後悔と恐怖で圧迫する。
社長「金森、顔を上げろ」
金森「う、うん……」
どうすればいいか分からないまま、社長の声の威圧感に負け、恐る恐る顔をあげる。目に入ってきた社長の顔は無表情だが、感情が溶岩みたいに噴き出ているのを金森は幻視した。
社長(ちょっと早まったかな)
金森の縮みあがった声を聞いて、社長はちょっと後悔していた。両肩に手を乗せただけとはいえ、思いっきり振り下ろしたろ暴力だろうし、弱っている女の子を怯えさせるような声を出したら傍から見たら鬼であろう。
社長(でも、絶対に認められないから、な)
そう思ったからの行動であり、今更引き返すつもりもない。
金森「……」
金森がゆっくりと顔をあげて、こちらを見つめてくる。金森の眼には、いつもの強い意志をもった光は感じられず、ガラスの目玉みたいに虚ろで涙で反射した弱々しい光しかない。
社長(まったく、なんて顔だよ)
怪談のお化けのように青白くて生気がなく、かわいい顔が台無しである。こんな顔させるまで気づかなかった自分が情けない。彼女の性格の良さに甘えて、無理に背負わせすぎたか。
金森「……しゃ、社長?」
ぽそり、といった感じの金森の声に、社長は意識を戻す。反省は後、今は絶対に告げないといけないことがある。
社長「一つ、告げておくことがある」
金森「な、何?」
こち、こち、こち、という時計の音は変わらない。人の事なんて、世界にはいかなる意味もないんだろうな、なんてどうでもよいことが社長の頭によぎる。
社長「俺は、お前を信じているからな!」
そう力強く言い切られた時に、
社長「絶対に強くなれるって! 市ヶ谷たちを越えられるって、俺は信じてるからな!」
自分の、金森麗子の世界は、まず間違いなく変わったのであるが。
金森「しゃ、社長……? でも……」
社長「でももくそもない! 俺は信じてるんだよ! お前のことを! それは絶対だ! だから、認められない! 期待しているのが可愛いことだけとか! 強くなんてなれはしないとか! 俺が! お前を信じていないなんて疑われることを! 絶対に!」
金森「でも! 私がかわいいってだけで社長はスカウト」
社長「ド馬鹿! それは誘った理由だ! 今の俺がお前を信じていることと何の関係もない!」
金森「え、えっと?」
良く分かってなさそうに、金森は首をかしげる。社長は、声を低く抑えてゆっくりと刻みつけるように、
社長「努力、してただろ? 今までいっぱい頑張って来てただろ? 試合もたくさんやっていろんな経験積んできただろ? 俺はずっとそれを見てきたんだ」
だから、
社長「それがあるから! 見てきたから俺はお前を信じてるんだ! 強くなれるって! 先に進めるって! 絶対に!」
金森「……」
金森はじっと自分を見つめてくる。その眼には、涙の反射以外の、力の籠った光が徐々にともっていく。社長もずっと彼女の目を見つめる。
金森「……」
社長「……」
沈黙、沈黙、沈黙、金森は見つめたままで瞬きすらしない。社長は、思いっきり言いたいこと言ったはいいが、こうも長く沈黙されるとちょっと不安になってくる。中々、青臭いというか、気障ったらしいというかだったし。う~む、どうしたものか。そんな少々間抜けた煩悶の中に社長がいると、金森が突然、呟く。
金森「……それは、社長だから? 社長だから選手みんなを」
社長「俺が社長じゃなくても、お前のことを、お前が強くなれるってことを信じていただろうよ」
それだけのことを、金森はやってきたのである。そのことに、胸を張ってほしいと社長は思う。
金森「……」
金森は何かを言う代りに、ポンと社長の胸に頭をもたれかからせ、
金森「ねえ、社長?」
社長「なんだ?」
金森「ぎゅってして、お願い……」
社長「ああ……」
金森の頼みに素直に応じ、肩の手を彼女の背にまわす。彼女もまた、組んでいた腕を放して社長の背に回して、子猫が甘えるように頬を社長の胸にこすりつける。そして静かに、
金森「……ごめんね社長。余計な世話焼かせちゃって」
社長「気にすんな。もちつもたれつだろうに」
金森「うん、ありがとう……」
そう言って、彼女は目を閉じ、胸に顔をうずめる。あったかい社長の胸、でも……
金森「ちょっと臭いよ、社長?」
社長「そ、そうか? ここ三日風呂に入っていなかったからかな」
……とりあえず、金森は社長は突き飛ばしておくことにした。
金森「もぉぉぉぉ! 信じらんない! 風呂ぐらいちゃんと入りなよ!」
社長「しょ、しょうがないなだろ! 忙しかったんだから!」
金森「関係ない! 社長の不潔! バイ菌!」
社長「余計なお世話だ!」
金森「余計じゃないもん! 顔がバイ菌だらけだよ! 社長のせいで! 責任とって!」
社長「どうしろってんだよ!」
金森「え、えっと……」
何やら金森、頬を染めて少し口ごもり、
金森「……か、体洗ってくれるとか」
社長「……俺は男なんだがな?」
何を言ってるんだこいつはといった、バカを見るジト目で社長は金森を見つめる。その視線はあっさり金森の沸点をぶっちぎり、ただでさえダメージのある脳をおかしくする。
金森「知ってるよ! それくらい! 社長も綺麗になって一石二鳥でしょ! とにかく! 今すぐシャワー室に!」
社長「はいはい、後でな。とりあえず今は医者だ。忘れてたけど」
金森「忘れるなんてひどい! 私が生きるか死ぬかの瀬戸際なのに!」
社長「そんだけ元気なら大丈夫だろうさ。俺は駐車場行くから、早く着替えろよ」
金森「待ってまだ話は、あ!」
そう言い捨てて出て行こうとする社長に、金森は立ちあがって追いかけようとしたが、ぐらりと傾いて倒れそうになってしまう。社長は慌てて金森をキャッチし、
社長「おいおい、大丈夫か」
金森「しゃ、社長。ごめん、そのちょっと、立ちくらんで、上手く立てないみたい」
足に力が上手く入れられないらしく、社長に体重を預けて、もたれかかったままである。
社長「痺れているだけってわけじゃないよな?」
金森「ん、痺れた感じないし、違うっぽい」
社長「はぁ、分かった。他の奴呼んでくるから、ちょっと待っとけ」
そう言って、社長が金森をベットのところまで運ぼうとすると、
金森「良いよ別に、社長がやってくれれば」
社長「良いが、着替えは出来るか?」
金森「無理、かも。社長、手伝って」
ちょっと頬を染めながら軽く頼んでくる金森に、こいつも同じネタを振ってとやや社長は呆れたので、
社長「これで俺がいいよって言ったらどうするつもりだ」
軽く攻めてみることにする。
金森「……じゃあ、お願いするね」
だがそれは墓穴。躊躇するように下を向いた金森だが、次の瞬間、社長の目を見てにっこり笑いながらそんな事を言い放ち、水着の肩を外しておろしにかかる。
社長「おいおい! ヤケ起こすな!」
社長はその様に驚き数歩後退。
金森「手伝ってくれるんでしょ? どこ行くの?」
にこやかな笑みを浮かべながら追撃しつつ、すでに水着の肩から手を抜き脇の下、あと少し下げれば胸の先がといった所まで下げて、
社長「っつ! とりあえず、駐車場行ってからな! 早く」
そう言って社長、戦略的撤退、ドアの外へ。そんな社長へ金森の一言は、
金森「……もう、いくじなし」
赤く染まった顔を顰めて、ドアをじっと睨むのでありました。

続く?
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